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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)36号 判決

大阪府豊中市上新田四丁目二二番一―二一三号

原告

松井清志

同所

原告

松井千恵子

右両名訴訟代理人弁護士

東畠敏明

右原告松井千恵子訴訟代理人弁護士

松井清志

大阪府池田市城南町二丁目一番八号

被告

豊能税務署長 近藤弘

右指定代理人

細川俊彦

平井武文

新田陽一郎

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告らは、「一、被告豊能税務署長が昭和五二年九月二六日付で原告らに対してなした昭和五一年分所得税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも取消す。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。

第二原告の請求の原因

一  原告松井清志および原告松井千恵子は、いずれも弁護士であるが、別表の各「申告」欄記載のとおり、それぞれ昭和五一年分の所得税の確定申告をなしたところ、被告は、昭和五二年九月二六日付で別表の各「更正・賦課決定」欄記載のとおり、それぞれ更正処分ならびに過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件各課税処分という)をした。

二  本件各課税処分がなされた理由は、原告らが昭和五一年七月一日訴外蔭山順一(以下蔭山という)との間で別紙物件目録記載の物件(以下、本件物件という)を代金九四五万円で同人に譲渡する旨の売買契約を締結した件(以下、本件譲渡という)について、原告らは、本件物件が租税特別措置法(昭和五三年法律第一一号による改正前のもの。以下、措置法という。)三五条一項に定める居住用財産に該当するから同条の適用があるとするのに対し、被告は右適用はないとすることにある。

三  原告らは昭和五二年一〇月一日被告に対し本件各課税処分につき異議の申立をしたが、被告は昭和五二年一二月二八日付で原告らの右各異議申立を棄却するとの決定をした。

四  原告らは昭和五三年一月九日国税不服審判所長に対し右各異議棄却決定につき審査請求をなしたが、同所長は同年六月一九日付で右各審査請求を棄却するとの裁決をした。

(一)  原告らは昭和四五年八月五日、本件物件を訴外日本住宅公団(以下公団という)から代金八三四万八、六〇〇円、割賦代金総額の支払いを完了するまでの間または、支払いを完了しても契約締結の日から五年間は、本件物件を他に譲渡するについて公団の承諾を要し、これに反した場合は買戻しまたは譲渡契約を解除するとの約定で買受けた。

(二)  原告らは昭和四九年三月末頃、本件物件が手狭となったため、住所を本件物件から肩書住居に転居したが、転勤を理由とするものでなかったので本件物件を譲渡せず、かつ、公団に対する譲渡の承諾申請もなさなかった。

(三)  しかるところ、原告らは同五〇年八月五日に前記譲渡制限期間が経過したので、同五一年七月一日蔭山との間において本件物件の売買契約を締結した。

(四)  措置法第三五条は、「個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡をし、当該家屋とともにその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡をし、・・・・・・場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項の規定の適用を受けている場合を除き、これらの全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる」として、二号において、短期譲渡所得の金額から三千万円を控除した金額に課税するものと定めている。

(五)  したがって、原告らは本件物件が居住用の物件であるから、右規定の適用を受け、税額は零でなければならない。

六  仮に措置法の適用について解釈上何らかの制限がなされるべきであるとしても、居住の用に供している家屋を譲渡のために空き家とした場合においては、その空き家とした日から三年以内に譲渡したときは、措置法三五条の適用があると解すべきである。

現に昭和五三年法律第一一号「祖税特別措置法及び国税収納金整理資金に関する法律の一部を改正する法律」一条により、措置法三五条は改正され「・・・・、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合」とされ、少くとも空き家にした日から三年以内に権利譲渡すれば措置法の適用がある旨明文化されたのである。

したがって、改正前の措置法三五条の解釈についても、居住の用に供されなくなった日から三年以内に譲渡すれば足りうるものと解すべきである。

原告らが本件物件を譲渡したのは、主として居住の用に供しなくなってから二年三ケ月後であり、三年以内であることは明らかであるから、措置法三五条の適用はあるというべきである。

七  仮に右主張が認められないとしても、国税庁長官の昭和四六年八月二六日付直資四-五「租税特別措置法(山林所得、譲渡所得関係)の取扱いについて」通達(以下措置法通達という)の三五-一の六によって「主として居住の用に供している家屋を譲渡のために空き家とした場合において、その空き家とした日から一年以内に譲渡したときにかぎり、措置法第三五条の適用がある」とする趣旨は、通常の譲渡の場合を指すものであって、本件物件の如く、取得時において、公団との間の契約により合理的な制限が課せられている場合には、特別の事情がある場合として取扱うべきであり、右通達にいう一年の猶予期間は特別の事情が消滅した日から起算すべきである。

けだし、何人も契約により譲渡制限が課せられている以上、契約を遵守することを当然と考えるからである。

しかるところ、本件物件の売買契約日は、昭和五一年七月一日であって、特別の事情消滅の日である昭和五〇年八月五日から起算して一年以内であることは明らかであるから、右通達に毫も違反するものではない。

八  よって、被告のなした本件各課税処分は違法であるから、いずれも取消されるべきである。

第三被告の答弁

一  請求の原因一ないし四について認める。

二  同五、(一)ないし(四)については認める。

同五、(五)については争う。

三  同六のうち昭和五三年法律第一一号により、措置法三五条が改正され、その内容が原告ら主張のとおりとなっていること、原告らが本件物件を譲渡したのは、主として居住の用に供することをしなくなってから三年以内であることは認めるが、その余は争う。

四  同七記載のうち、本件譲渡がなされた日が昭和五〇年八月五日から起算して一年以内であることは認めるが、その余は争う。

第四証拠関係

原告らは、甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四号証、第五号証の一、二を提出し、乙第一号証の成立を認め、被告は乙第一号証を提出し、甲号証全部の成立を認めた。

理由

一  請求の原因一ないし四については各当事者間に争いがないから、本件訴訟の争点は、本件物件が措置法三五条一項に定める居住用財産に該当するか否か、したがって本件譲渡に同条の適用があるか否かに帰着する。

二  よって、右の争点につき判断する。

(一)  請求の原因五の(一)ないし(四)については各当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告らの主張に従って順次検討を加える。

(1)  原告らが公団から本件物件を買受ける際に、原則として昭和五〇年八月五日以前に本件物件を第三者に譲渡してはならないという制限が付されていたもので、原告らはやむを得ず右制限期間を経過した昭和五一年七月一日になって本件譲渡をなしたものであるから、右譲渡につき措置法三五条の適用があるとの主張について。

措置法は租税負担の特例を定めたものであるから、同法各本条に定める負担軽減のための要件はみだりに拡張解釈することは許されないと解すべきところ、原告らにおいて、昭和四九年三月末頃本件物件が手狭となったため肩書住居に転居したことを自認しているのであるから、本件譲渡のなされた昭和五一年七月一日当時、原告らが本件物件を居住の用に供していなかったことは明らかである。そうすると、後記通達による場合はともかくとして、本件譲渡については措置法三五条の適用はないものというべく、単に公団との間に契約上の右制限があったという一事をもって本件譲渡につき措置法三五条の適用があるとする原告らの右主張は容れることができない。

(2)  居住の用に供している家屋を譲渡のため空き家とした場合において、その空き家とした日から三年以内に譲渡したときは措置法三五条の適用があるとする主張について。

右主張に沿った改正が昭和五三年法律第一一号によりなされているが、本件課税処分は原告らの昭和五一年分の所得税についてのものであって、右改正後の措置法の適用の余地のないことは昭和五三年法律第一一号附則二条によっても明らかであるから、原告らの右主張は容れることはできない。

(3)  国税庁長官の措置法通達の三五-一の六の趣旨は通常の譲渡の場合を指すものであって、本件物件の如く、取得時において、公団との間の契約により合理的な制限が課せられている場合には、特別の事情がある場合として取扱うべきであり、右通達にいう一年の猶予期間は特別の事情が消滅した日、即ち公団との契約による譲渡制限期間が経過した昭和五〇年八月五日から起算して一年と解すべきであるから、本件譲渡については措置法三五条が適用されるとの主張について。

右通達において、居住用の家屋を空き家とした日から一年以内に譲渡したときに限り措置法三五条の適用があるとしているのは、措置法三五条一項に規定されている災害により滅失した居住用家屋の敷地の譲渡等についての一年の期間の猶予と比較衡量して定められたものであることは明らかである。したがって、単に契約上の右制限があることの故をもって、災害により滅失した居住用家屋の敷地の譲渡等の場合以上に本件譲渡を優遇すべき合理的な根拠を見出し難い。そうすると、右通達に定める一年の猶予期間は原告らが肩書住居に転居した昭和四九年三月末頃から起算すべきことになるから、本件譲渡は右猶予期間内になされなかったことになり、措置法三五条の適用の余地はなく、したがって、原告らの右主張は容れることはできない。

(三)  以上の次第で、本件譲渡による所得は措置法三五条の適用を受けることができないものであり、同法三二条の分離短期譲渡所得と解すべきところ、成立に争いがない甲第三号証の一、二(異議決定書謄本)、第五号証の一、二(裁決書謄本)ならびに弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告が異議決定の際認定した原告松井清志の右分離短期譲渡所得金額二一八万二、一八四円および原告松井千恵子の右分離短期譲渡所得金額二二一万〇、五五八円の金額そのものを争っていないことは明らかであるから、右各金額の範囲内で定められた別表の各「更正・賦課決定」欄記載の原告らの各分離短期譲渡所得金額に非違はない。

三  そうすると、原告らが別表の各「申告」欄記載のとおりそれぞれ昭和五一年分の所得税の確定申告をなしたことならびに同表中〈1〉ないし〈3〉、〈5〉、〈6〉、〈8〉、〈11〉の項目について各当事者間に争いがないから、被告が原告らに対してなした別表の各「更正・賦課決定」欄記載のとおりの各更正処分はいずれも正当であり、これに伴ってなされた各「更正・賦課決定」欄記載のとおりの各過少申告加算税の賦課決定処分も正当である。

四  よって、被告が原告らに対してなした本件各課税処分はいずれも適法であるから、本件各課税処分の取消を求める原告らの請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 裁判官 近藤壽邦)

物件目録

一、豊中市新千里南町三丁目三番

宅地 二六六六六・八二平方メートル

(持分三、一〇〇分の一〇)

二、右同所三丁目三番C八号棟

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建居宅

床面積一階乃至五階

各三一四・〇四平方メートル

居宅の番号 第一〇二号室

居宅の床面積 一階部分 四六・二七平方メートル

右一、二につき、原告清志持分二分の一、原告千恵子持分二分の一

別表

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